Mizno's Scape

NETSCAPETIME
起業家ジム・クラーク

NETSCAPETIME 起業家ジム・クラーク
著 ジム・クラーク
with オーウエン・エドワーズ
監訳 水野 誠一
日経BP社
定価 ¥1.800

ジム・クラークの名は、シリコン・グラフィックス社の創業者、ネットスケープ社の創業者、最近話題の医療ソフトサービス会社・ヘルシオン社の創業者、そしてこれらの企業を立て続けにナスダック市場において店頭公開させた、類い希な起業家として広く世界に知られている。この本は、その中でも一番の衝撃を持って迎えられたネットスケープ社の起業から店頭公開までの闘いを彼自身が語ったものである。ところで、一見門外漢のように見える私がこの本の監訳者をつとめた経緯をまず述べねばなるまい。それは一九九四年七月に、長年勤めた西武百貨店の代表取締役副社長を辞任するというニュースが流れたとき、すぐにアメリカ在住の友人・山本雄洋氏からもらった一通のファックスから始まる。彼は「Tak(タック)」の愛称で知られるハイテク分野専門のビジネス・コーディネーターであり、シリコンバレーで一匹狼として三十数年の経験をもとに、多くの米国ハイテク企業を日本のコンピューター関連や通信関連企業と結びつける仕事をしてきた。そのTakから、インターネットのブラウザーソフトを開発した起業間もない「モザイク・コミュニケーションズ社」が日本での事業を開始しようとしているが、日本法人の経営をしてみないかという誘いだった。なんとアメリカでの起業後わずか四ヶ月という時だった。当時、個人的にインターネットに関心を持ち始めたばかりでもあり大いに興味を抱いた。とは言え、流通業二五年の経験はあるものの、インターネットの世界にはいかにも門外漢だったため、ジム・クラークにその理由を尋ねた。すると「私のまわりには、コンピューター・ハードの専門家もソフトの専門家もいくらでもいる。しかしインターネットの世界はもうすぐにEコマースなどの実用段階に入るから、むしろコンテンツを提供する流通業や決済手段のための金融業に通じている経営者が欲しいのだ」という答えが返ってきた。経営者という立場を離れたばかりでもあり、残念ながらその申し出には応えられなかったものの、アドバイサーとして日本における現地法人の立ち上げや、ブラウザーソフト販売のためのパートナー探しを手伝うことにした。明けて一九九五年の三月の法人設立から、一九九八年にネットスケープ社本体がアメリカ・オンライン社(AOL)に買収されるまでの間、Takと共に経営全般にわたってサポートしてきたわけである。おそらくこれが従来の流通業からの誘いだったら絶対に乗らなかっただろう。思い切ってこの世界に飛び込んでみたのは、インターネットという未知なる世界に魅せられたからに他ならない。それにしても当時まだ夢物語だと思っていたEコマースがアメリカではすでに実用段階にまで来ていることには大きなショックを受けたものだった。ちなみに本文中にもしばしば登場するアメリカ最大のバーチャル書店「アマゾン・ドット・コム」がシアトルのガレージで起業されたのも、奇しくも一九九五年だった。原題の「ネットスケープ・タイム」とはネットスケープの時代という意味ではなく、ネットスケープに象徴されるインターネット時代の「時間感覚」を意味する。ハイテクの進化の時間感覚はしばしば「ドッグイヤー(犬の加齢スピード)」以上といわれるが、ジムの説くところではインターネット登場後はその時間が更に幾何級数的に速まっているという。それは瞬時に異次元にワープしてしまうタイムマシーンのような速さだともいう。この話のもう一つの主題でもある宿敵マイクロソフト社との熾烈な戦いと駆け引きも興味深い。そのマイクロソフト社のブラウザー「エクスプローラー」をめぐる司法省からの独占禁止法違反の告発とその裁判は、この本の出版後である一九九九年十一月に米連邦地裁によってマイクロソフトの独占認定が出たことはご承知のとおりだ。さらに司法省によるマイクロソフト社を二社に分離する勧告も検討されているということだが、その前にビル・ゲイツがCEOを辞任発表するなど、慌ただしい動きが続いている。この分離案が実現すればまさにジム・クラークがこの本の中で述べている考えに近いものになろう。だがこの判決さえすぐに無意味なものになってしまうほど、情報通信界の変化と進化のスピードは早い。それを裏返せば、マイクロソフト社との戦いではネットスケープ社が敗者だという巷の評価すら、最後の最後まで分からないということかもしれない。事実、ネット接続では2000万人の会員を抱え、マイクロソフト社などの二位グループに五倍以上の差をつけているアメリカ・オンライン社(AOL)に巨額で買収されたネットスケープ社は現在マーク・アンドリーセンを中心にその新たな戦略を模索し始めている。またさらにアメリカ・オンライン社が、タイム・ワーナー社と合併して垣根のない巨大なメディア産業が誕生したことも大いに興味深い。こんな経緯から、今回ジム・クラークがこの本を出すに当たって、Takと共に日本での翻訳出版を企画し、私自らが監訳を引き受けることになった。現在Takは、ジムの四番目の起業になるデジタル写真のプリントサービス事業「シャッターフライ社」の立ち上げをサポートしている。Takの三〇年に及ぶシリコンバレーでの活躍は実に興味深いもので、近い将来に彼の半生記が一冊の本にまとまるという話もある。大いに期待したいものだ。最後に、この本の出版に当たって日経BP社との縁を取り持ってくれた赤羽良剛氏、日経BP社の黒沢正俊氏、岩田正之氏、短時間で下訳の作業を引き受けてくれた小林誠一氏に感謝の気持ちを捧げたい。さらに、ジム・クラークとの出会いをつくってくれたTakこと山本雄洋氏と、あらゆる視点からネットスケープの日本への導入を応援してくれたNECの特別顧問・水野幸男氏、日本ネットスケープ・コミュニケーションズ社の経営を引き受けてくれた杉原信一氏、杉山逸郎氏、そして誰よりも未知なるウェブの世界に私を招き入れてくれたジム・クラーク氏には、格別の謝意を捧げるものである。監訳者あとがきより


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