時代の気分 Market Scope vol.169 May 2011  文:貴田 マリ

電力危機

東日本大震災による福島第一原子力発電所の炉心溶融や、第二原発の運転停止により合計910万キロワットの電力供給が止まってしまった。さらに関東の3カ所の大型火力発電所が津波の被害により運転停止を余儀なくされ、約920万キロワットが失われた。
周波数50ヘルツの東日本グループ(東京電力、東北電力、北海道電力)に属する東北電力も、太平洋側にある原発や火力発電所が被災し、電力不足の状況下では首都圏に送るほどの余剰電力はない。北海道電力からは海底ケーブル経由で送ってもらっているが、60万キロワットまでが限界だ。周波数60ヘルツの西日本グループ(関西電力、九州電力など電力6社)の中部電力などから電力供給を受けるには、周波数を調整して東西を結ぶ変電所が三カ所しかなく、処理能力は最大100万キロワットとなっている。ヨーロッパでは、各国間が鉄道網のように送電線で結ばれていて、電気の輸出入が円滑に行われているが、海に囲まれた島国日本は近隣国と送電線で結ばれてはいないので、不足分を海外に頼ることもできない。
このような八方塞がりの結果、3月の計画停電が実施されたのだ。

管内に4300万人が暮らす東京電力は、運転を停止していた火力発電所を急遽稼働させるなどの緊急対応により、4月5日時点での供給力を3950万キロワットまで回復させている。今後、横須賀の休眠火力発電所の再開やガスタービン発電機の新設などで、7月末までに供給力4650万キロワットまでに増やすと発表し、さらに4月15日には7月末の供給力を5200万キロワットに修正している。しかし過去のデータを見てもこの容量では、電力需要がピークに達する夏場の需要を満たすことはほぼ不可能だろう。東京電力の過去3年間の平均月別最大電力需要によれば、7月は5819万キロワットであり、現在増強予定の上限に達したとしても600万キロワット以上の不足になる。ちなみに猛暑の昨年7月の電力需要は、5999万キロワットまで増大した。

2003年にも夏場の電力需要の増大を懸念し、首都大停電の危機が取りざたされたことがある。これは2000年に端を発した東京電力と経済産業省原子力安全・保安院、そしてその監督官庁である経産省によるデータ捏造・改ざんの表面化で、正しいデータ測定の再検査が必要になったためだ。更にそこへ定期検査が重なり、2003年4月15日に東京電力の17基の原子力発電機が全停止されたが(8月中旬までに5基が再稼働を開始)、夏の計画停電は回避できた。それには、四つの大きな理由があった

  1. ようやく動き出した“オール電化キャンペーン”を中止。あらゆる方法で“節電のお願い”を呼びかけたことで、一般家庭の電力消費を押さえられたこと。
  2. メーカーなど自家発電設備を持っている企業から積極的に電気を購入し、電気をかき集めたこと。
  3. 産業界の大口需要家に、直接交渉で電力使用の抑制を要請したこと。
  4. 冷夏。これに救われたと言っても過言ではない。

4月5日、経産省は今夏のピーク時電力需要を押さえる対策原案を固めた。東京電力管内の契約電力500キロワット以上の大口需要家に対し、ピーク時の最大電力使用量を前年比で25〜30%削減、小口事業者に関しては20%削減、そして一般家庭では15%の節電目標を設けた。日本経済団体連合会も独自の動きを見せ、25%を目標として“輪番操業”を含めた節電行動計画づくりを加盟企業に求めている。
しかし政府による指導を待つより早く、大手企業、区や地域、そして個人レベルでの節電意識の高まりは著しく、様々な対応が始まっている。

荒川区では西川太一郎区長が自ら発案した、全国初となる“節電マイレージコンテスト”が実施される。6月から9月の4ヶ月間で、前年同月と比べ電気使用料を20%減らした区民に節電グッズなどの商品が贈られる。東京電力の使用量通知には前年同月分も記載されているので、だれもが簡単に参加できる。3月の計画停電では、東京23区が原則として対象外とされた中で、荒川区は隣接する足立区とともに停電が実施された数少ない区だった。度重なる停電で区民生活が混乱した経験も、独自の節電策導入の動機付けになったと西川区長は明かしている。
“電気の街”秋葉原も、電力消費のシンボルとみられているからこそ、との思いで節電に取り組んでいる。店頭の大型ビジョンを消したり、店内でも商品の大型テレビの一部を消す、売り場の照明を間引くなどして節電に努めている。顧客の節電意識も大震災以来格段に高まっており、消費電力の少ないテレビやエアコンへの問い合わせが急増しているという。
一般の商店街でも、街をあげて節電に取り組む動きが出てきた。約400店が連なる品川区の戸越銀座商店街では震災直後から、各店に店内の照明を一部消すなど節電協力を呼びかける傍ら、アーケードや街路灯の一部も消灯したり、有線放送もストップするなど商店街組合主導の節電に取り組んでいる。

産業界にとって計画停電は、経済活動の効率を著しく落とす。電力供給が1回にわずか3時間ストップしても、とりわけ生産現場での影響はとてつもなく大きい。午前と午後の2回実施された日は、自宅待機の指示をした企業が多い。また、午前あるいは午後のみの出社としても、計画停電の影響で電車のダイヤが大きく乱れ、会社にたどり着けない社員も続出した。3月14日からの計画停電が適用されたソニーの厚木テクノロジーセンターでは、14日から18日までの5営業日で計15時間が停電した。これは営業時間の約35%に当たり、実際の業務はほぼ1週間すべてストップした。
この苦い経験からソニーは、夏場に見込まれる深刻な電力不足に対応するため、オフィスの就業時間に独自のサマータイム導入を発表した。実施期間は検討中だが、午前9時から午後5時30分の勤務時間を、1時間程度前倒しすることで節電につなげる。独自のサマータイムは森永乳業も導入を決めているが、実施企業はさらに増えることが予想される。
ソニーはサマータイムのほかにも、休日の分散化による節電を計画している。7月から年末までの全祝日(7日間)を勤務日とする代わりに、その7日と有給休暇を合わせた2週間の夏休みを設ける。これに加え、7月から9月の土曜日あるいは日曜日を勤務日とする代わりに、週末に働いた日数分を平日に休み週休2日制を維持するなど、柔軟な姿勢で取り組んでいる。

私たちにとって最も身近な節電数値は、経産省案の一世帯15%だが、具体的なイメージを描ける人はごく少数であろう。しかし15%の節電は、ほんの少し気をつければ簡単に達成できるようだ。
省エネルギーセンター発行の“家庭の省エネ大事典2011版”には、エアコン、冷蔵庫、パソコンなど7種の家電の節電ポイントが述べられ、全てを実行すれば、一世帯あたりの電力消費量は約16%まで削減できるという:

  1. エアコンは、夏には28度を目安にし、必要な時だけにつける。
  2. 照明器具は、電球を省エネ型に換え、こまめにスイッチを切り替えて点灯時間を短くする。
  3. 冷蔵庫は、適切な設定温度にし、ものを詰め込まず、開閉を減らす。
  4. テレビは、画面は明るすぎないように設定し、音量は不必要に大きくせず、見ない時は消す。
  5. パソコンは、使わない時は電源をOFF。
  6. 洗濯機は、まとめ洗いで回数を少なくする。
  7. 温水洗浄便座は、使用後はふたを閉め、便座と洗浄水の温度調節を低めに。

この程度のことなら、何の苦痛もなく実行できる。まず個人、そして地域や企業が知恵を出し合い工夫すれば、さらに多くの手段が考えられるはずだ。

東日本大震災により私たちは、政府がいかに頼りないかを痛感させられた。また電力を濫費していながら、それが当然と思っていた日常を顧みるチャンスを与えられた。
今回の大震災は、第二次世界大戦以来初の国家的非常時と言われているが、これが私たちにとって真のエコロジー、新しいライフスタイルの原則、そして政府のあるべき姿を考える機会となれば、日本にとって有意義なターニングポイントとなるであろう。