時代の気分 Market Scope vol.180 Apr. 2012  文:石丸 淳

低燃費の実態

年明け早々に、母親の病院通いのためのクルマが壊れてしまった。12年落ちのラグジャリー・セグメントのものだったが、昨年辺りからもっとコンパクトで燃費のいいクルマにしようか、と言っていた矢先だった。とは言え、真剣に車種を選定していた訳でもなく、ぼんやりとそうしたい、と思っていただけに、心の準備だけではなく何の準備もなかったので、殆ど一から考えることになった。何しろ毎日のように使用しているので早く決めなければならないのだが、安い買い物でもなく、そう簡単に妥協も出来ない。

という訳で、久し振りに1ヶ月半程で合計13台を輸入車インポーターから借りてきて乗り比べる「広報車生活」をおくることとなった。
このところ、新しいモデルにまったく触れていなかったのでかなり駆け足の試乗となったが、遅ればせながらも低燃費コンセプトで選んだ今回は「低燃費」について実感を得られた。
5年程前にこのコラムで環境問題と最新のディーゼル、その他のパワー・プラントについて書いたが、その際には大きく燃費に触れることはなかったのに・・・。 ところがその後、サブプライム・ローンの破綻問題、リーマン・ショックと、立て続けに経済の大問題が起こり、更にこの日本では東日本大震災が大きな影を落とした。 そして今、イランの核開発問題による制裁などでイラン産原油の先行き不透明感から、原油価格が大きく高騰している。
日本においては円高による恩恵から、今まではガソリン価格は大きく値上がりしなかったが、さすがにこの1か月程でジリジリと値上げが行われており、人々の財布を締め付けている。 そこで環境問題以上に世の中の人々も「低燃費」に目を向け始めたわけである。

そんなこともあってか、この数年で燃費に関する情報が取り沙汰されることが多くなり。 出遅れていた海外メーカーも低燃費のガソリン車やハイブリッド車(HV)、あるいは電気自動車(EV)へ軒並み舵を切り直し、今月のジュネーヴ・ショーでも沢山のモデルが発表された。 以前書いたように、何れ化石燃料は枯渇する。 だから次世代燃料の開発、あるいは燃料を使わない動力源の開発が進められてきた。その中で燃料の消費を抑える代表が今のところ低燃費のエンジン、ハイブリッドということになる。

ところが、その燃費の実態がこの数年で特に問題になってきた。いや実は、こうした騒ぎの前から日本の燃費表示の実態は、他国に比べて怪しい、と言われ続けていたのだ。 度々そうしたクレームが起こることで、監督省庁である国交省も測定方法を改めてはいるが、一向に改善されていない。 これまで評判の悪かった日本の「10・15モード燃費値」を改め、昨年の4月以降は「JC08モード」というものに計測方法が変わり、より実態に近くなったと言われているが(それじゃあ今までのものは何だったのだ?)、それでもまだ相当おかしいのだ。
もともと測定の仕方と表記が欧米では異なることから、またもや日本はガラパゴス(進化ではなく取り残される方)になりつつあるのである。 欧米では燃費の表示方法が、市街地走行モードと高速走行モード、およびMixと別けて表記されているのだ。 また、日本のメーカーは、そのテストに合わせてチューニングされた車両、専門のドライヴァーまで用意して測定に臨むので、海外のメーカーには当然そのようなことは無理だと言われている。
がしかし、その海外メーカーのものでさえ、どうも実態からはかけ離れている気がする。

日本の場合「10・15モード燃費値」も「JC08モード」も、市街地の走行を想定して測定されているのだが、何故甘い数値が出るかが問題である。 例えば地方都市の閑道などの場合、そこそこの定速で走れることが多いから、都内の渋滞だらけな道路でもたもたしているより遥かに数値が良いのは当たり前のことである。 さらに高速道路での移動となればもっと数値は良くなるし、全体的に日本車よりギアリングの優れた欧州車は余計に燃費が伸びるだろう。よって実体としては、都心部よりも地方の条件に近いかもしれない。

一つの例を挙げてみよう。日本のカタログ・データでは10・15モードで38km走るとされるトヨタのプリウスだが、アメリカのカタログには何km走ると書かれているかご存じだろうか。 米連邦環境保護局(EPA)がCAFEという燃費基準を設定しているが、それに沿った形で示されるその数値は実にリッター辺り21.26km(Mixで50マイル/1ガロン)と表記されている。 同様にEUのカタログで、プリウスはリッター辺り約25km(3.8~4L/100km Mix)である。日本とアメリカにおける、この15km以上の差は計測方法だけでは説明が付かないと思うのは筆者だけだろうか。

それでは実態はどうなのだろう。 今回、燃費に興味を持ってしまったのでトヨタにも立ち寄っていろいろ聞き出してみると、果たして殆どのプリウス・ユーザーの実質燃費は都内だとリッター辺り17~8kmで、良い場合でもせいぜい22km止まりといったところだと言う。 そう言えば、先代のプリウスに乗る、少々乱暴な友人は夫婦ともに15kmしか走らないと言っていた。 またある友人の奥方のご家族は、同じトヨタのSAI(カタログ表記はJC08モードで19.8km/L)で、概ね10km/L走らないと嘆いているらしい。

他の日本車メーカーがどの程度の燃費であるのかは試したことがないので語ることは出来ないが、大トヨタとそう大きく変わることはないだろう。 では実質的に今回体感した輸入車はどうだったかと言えば、案の定日本車よりは実態に近かったと思う。 そしてここが肝心なのだが、エコ・ドライヴィングなど到底できない身には、乗って愉しいことが一番だった。 一応、自分の中に基準を作ろうと短時間ではあったが現行のプリウス、そして出たばかりのアクアにも試乗はしてみた。が、特にプリウスのクルマとしての出来の悪さにはがっかりしてしまった。

ちょうどこの3月にアメリカで、広告表示されている燃費と実際の数値があまりに乖離していると、消費者からホンダが訴えられていた裁判があり、消費者が勝訴してホンダは140億ドルの支払いが決まったところだった。 そう、前述のトヨタのアメリカにおけるカタログ表示は、この訴訟社会でリスクを出来るだけ避けた結果なのだ。 ますます日本でのカタログ表記が実態から乖離していることが浮かび上がるのだが、結局は気分で「燃費」と騒ぐ消費者がもう少し賢くならないといけないということだろう。

とうとう肝心な、さんざん乗った輸入車についてのコメントを書くスペースがなくなってしまったが、結果として日本車を選ぶことが出来なかったのは、言うまでもない。 運転する愉しみと所有する喜びが優先してしまった訳だ。一般的に燃費を最重要課題にクルマ選びをする場合、消費者は何を基準に考えれば良いのか。 気分で「燃費」ということは、クルマとしての本質を見誤る危惧がある。燃費はもちろん大事なことではあるけれど、それだけではないところがクルマというものの難しさでもあるのだ。