時代の気分 Market Scope vol.182 Jun. 2012  文:石丸 淳

アイドルたちの示す時代

このところ“ももクロ”と呼ばれる5人組のアイドル・グループ「ももいろクローバーZ」の露出がTVなどで上がっている……らしい。朝や夕方の情報番組で取り上げられていることが多く、その活動がいろいろと報告されている。それらを見ていると、相当頑張っているなぁ、と感じていることしきりである。どうもかなり激しくいろんなことにチャレンジしているという、並みのアイドルとは違うらしいことがセールス・ポイントのようだ。もちろん、これまでのアイドルたちだって頑張ってなかった訳ではないのだろうが。

昨年の前半ぐらいまではあまりメジャーになれず、それなりの苦戦を強いられてきたようだが、彼女たち自身が“アウェー”と言っている、全く自分たちのファンのいない場所、例えば全くカテゴリーの違う歌手のコンサートに乱入したり、イヴェントに参加したり、といった無茶が評判を呼んでいるようである。氣志團とのジョイント・コンサートであったり、アニ・ソンの水木一郎さんや加藤茶さんとのコラボレーション、さらにはロック・イヴェントなどにも乱入しているらしい。その“頑張り感”は涙ぐましいものがある。

こうしたアイドルたちには早くからオタク・ファンがいて支えているのだが、とうとうメジャーな世界に足を踏み入れることが出来たということか。この30年ほどでアイドルもかなりの様変わりをしてきた。より身近な存在が求められ、彼女たちの情報は通信環境やテクノロジーの進化であっという間に世の中に流れ、仕事の取り組み方や内容も変わってきている。そう変遷してきたのは恐らく「おニャン子クラブ」辺りからではないかと思うのだが、それと同時に多人数のアイドル・ユニットという流れも作ったと言えるだろう。

人数が多いと言えば「AKB48」が何と言っても時代を作っている。図らずも「おニャン子クラブ」と同じ仕掛人、秋元康さんのプロジェクトでもある。特にこの2年ほどの人気上昇ぶりは尋常ではない。いよいよ国民的アイドルという言葉が相応しい雰囲気なのである。それまで普通の人々には、例によってオタク系が喜んでいる秋葉原にありがちなアイドルだと思われてきた。秋葉原に専用ステージを設え、“いつでも会いに行ける”をキャッチ・フレーズに、確かに秋葉原をメインに考えられたことはその名前からもうかがえる。

大勢でアイドル・グループを結成する、という発想は、やはり昔から1人で売り出すのはちょっと無理かな、と思われるアイドル志望の女の子たちをまとめる手段であったはずだった。「おニャン子クラブ」の場合は、最初からTVというメディアありきで、番組のアシスタントから始まっているので少し事情は違うかもしれないが、「AKB48」の場合はある意味で東京の中でも秋葉原という“ローカル色”を鮮明にしていたから、今ほどの人気を誰も想像出来なかったと思われる。

特にアイドル好きでもない筆者も「秋葉原48プロジェクト」なるものが始まってから3年程は、その存在すら知ることはなかった。強く印象に残ったのは一昨年の紅白歌合戦の時である。紅白自体をちゃんと見ていたのではないのだが、もう一昨年と言えば特に“選抜”と呼ばれる上位20人ほどのメンバーは、それぞれ個人での仕事が増えてきて、大変な忙しさになっていたはずなのに、自分たちの歌以外に他の歌手のバックで踊り歌うためのレッスンで、大晦日までの1週間をNHKの大部屋に寝泊まりし、そこからそれぞれ別の仕事に行ったのだという。

いつの時代も、きっと売れていたアイドルたちには涙ぐましい努力というものがあったに違いない。かつてのアイドルたちの時代も、今とは全く違う環境、移動時間の長さや放送やイヴェント、取材に掛かる効率の悪さなどで、ろくに寝る時間も取れずにいた話を良く聞いた。だがこの21世紀に、そうした話はもうないのではないか。そんな中で彼女たちは、ほんの少しでも時間が出来ると秋葉原の彼女たちのホームであるステージに立つのだという。それはいつまでもAKB48の基本的なコンセプトを忘れないということなのだろう。

これを書いている時に、ちょうど彼女たちにとって一番辛い“選抜総選挙”という、ファンによる人気投票の2012年イヴェントのスケデュール発表があった。彼女たちはこの選挙によって、グループ内の序列を決められてしまって、それによって参加出来るプログラムや露出の仕方などが左右されてしまうのである。2012年で、その選挙は第4回を迎えることになった。今年から選抜メンバーの数に変更があるなど多少システムが変わったが、基本的に人気投票であることに変わりはない。今年は各姉妹ユニットを含めてその参加人数は237人にも及ぶ。

AKB48には基本のメンバーとしてティームA、K、Bのそれぞれに16人ずつ、その下に研究生などで構成され、他の都市、名古屋、大阪、福岡にも姉妹ユニットが作られている。また海外にも姉妹プロジェクトは飛び火する。こうして増殖するメンバーの中から選ばれて、初めてTVや雑誌などに露出されるチャンスが多くなる訳だ。そのために彼女たちは握手会など、日々の努力を重ねている。普段、我々の目に見えないところで夢に向かっている。また、個々でそれぞれ別のプロダクションに所属する環境も、それを支える。

昨年“選抜”されたメンバーで、特に二人のメンバーが目立って躍進を遂げた。一人は“ゆきりん”こと柏木由紀さん。多くの仲間たちから、メンバーで一番腹黒いなどと言われつつティームBのキャプテンとしてメンバーの信頼を得ながら、TBSの昼の情報番組でお天気お姉さんをやるなど、自分自身の露出に努力してきた。もう一人の“さしこ”こと指原莉乃さんも、へたれキャラで推されていたが深夜に自分の冠番組を得たり、他のアイドル・グループの番組に乱入したりと、それぞれに重ねた努力が実ったのだ。

もちろん所属する事務所がそれぞれ大手であり、その力もあったのは否めない。しかし、例えば柏木さんは、アイドルには不向きと思われるぐらいやや大柄でがっちりとした体格であるし、指原さんは滑舌も悪くグダグダといった体で、これまでの感覚では純粋なアイドルとして成立し難いと言えるだろう。二人とも、どうしてもアイドルになりたい、という夢を強く持って九州から上京、すべてを夢に向けて諦めずに頑張ってきた結果なのである。そんな彼女たちも売れてくるに従い、どんどん磨かれて本当のアイドルへと光り輝いてくるから不思議なものだ。

何だか前述の“ももクロ”といい、努力した分だけ報われているという、とても好例と感じている人がもしかすると多いのではないか。この数十年というもの、この国には、いやこの国だけではなく世界のどこを見ても、努力が報われることのない世の中となってしまっているのに。この国の政治家たちも、つい先頃「努力が報われる世の中にしたい」などとスローガンを掲げていた。そこには何の具体的な目標も方法も示されることなく、空虚な良い訳ばかりが目立つだけである。

そして今回迎える2012年の選抜総選挙。不動のセンターと言われた、前回1位の“あっちゃん”こと前田敦子さんが“卒業”することでファンの間では様々な情報が飛び交う。中間発表では躍進組の二人がさらに順位を上げているという。この文が出る頃にはその発表がされているだろう。さしもの秋元さんも次なる手がそろそろ尽きてきたかに見えるし、AKBだけではなくこの先アイドルというものがどのように進化?するのかは解らない。だがいつの時代も、夢を諦めない、そして夢を振りまく存在として変わらないのではないだろうか。