時代の気分 Market Scope vol.187 Nov. 2012  文:貴田 マリ

2012年雑感

初冬の気配さえ感じさせる朝夕の寒さの中、今年もあと二ヶ月を残すばかりとなった。
少し早いが、今年の記憶に残る出来事を振り返ってみたい。

東日本大震災からの復興

昨年は、東日本大震災という未曾有の惨事にみまわれた年だったが、ほぼ20ヶ月を経た現在でも、災害地の復興は遅々として進まない。今年2月10日には、復興の司令塔となる復興庁が発足したが、はたして機能しているのだろうか?

そんな中、震災復興予算の流用問題がここにきて大騒ぎになっている。これは、9月9日放映のNHKスペシャル“シリーズ東日本大震災追跡 復興予算19兆円”がきっかけとなった。この番組は「復興は進んでいない。お金は一体どこに使われているのか」と、被災地から切実な悲鳴があがっている現実を踏まえ、増税を前提につぎ込まれることになった巨額の“復興予算”は一体どのように流れ、使われているのかを徹底検証した。その後10月に入り朝日・毎日・読売など各紙や民放各局が一斉に批判報道を展開し、国会にも飛び火している。
復興予算流用の報道には呆れたり、憤りを覚えるが、あまりこの流用問題に関心が移り過ぎ、肝心の現地への支援に支障を来す事態が起こってはならない。あの大きな災害からの復興には時間が掛かることは当然だが、それにしても政府の対応は余りにも遅い。現実に即した復興計画はあるのか? 公開して欲しいものだ。

原発稼働停止と再稼働

5月5日、北海道電力の泊原発3号機が定期検査のために停止した、これにより1970年以来42年ぶりに、国内の全ての電子力発電所が稼働を停止した。しかし脱原発派が喜んだのも束の間、その後の議論がうやむやのまま、7月1日には関西電力の大飯原発3号機が再稼働し、原発稼働ゼロはわずか57日で終わりを告げた。
福島原発の事故以降“脱原発デモ”が盛り上がりを見せる一方、世間一般では“脱原発”への意識が二極化し始めている。原発がいいか悪いかは別として、国家の命運をも左右するエネルギー政策の議論が、トーンダウンしかねない風潮を懸念する声は小さくない。
“脱原発”の主張がなかなか政策に反映されないことに焦るデモの参加者、「お祭り騒ぎでは何も変わらない」とデモに否定的な一般人、そして報道姿勢の一貫性を欠くマスコミ‐国民の間には“無力感”が漂っている。
昨年の福島原発事故の直後、私たち国民は“生存の危機”を感じていた。目に見えない放射性物質におびえ、「原発など即刻全て廃止すべき」という気持ちを、一時は多くの国民が持っていた。それを考えると、わずかその1年半後に“脱原発”の賛否に関する意識が、以前よりもはっきり二極化しているように感じられることには、違和感を覚えざるを得ない。

大型商業施設オープンラッシュ

ゴールデンウィーク直前から、5月22日の東京スカイツリー開業までの約1ヶ月間に、都心の大型商業施設が続々と誕生し、都心への消費回帰の流れを象徴している。

その先頭を切ったのは、4月18日に表参道にオープンした “東急プラザ表参道原宿”。日本初上陸の米人気ブランド “アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ”など27店舗が出店し、20代後半以上の女性を狙ったファッション店や雑貨店が並ぶ。「インターネットで必要なものが安く便利に手に入る時代だからこそ、お客様に足を運んでもらうことを心がけました」と関係者は語っていた。
翌19日には、東京・台場に“ダイバーシティ東京プラザ”がオープンした。こちらも日本初上陸の米人気ブランド“オールド・ネイビー”を始め、ファストファッションの人気ブランドが勢揃いしている。人気アニメ“機動戦士ガンダム”をテーマにした施設や、700席の大型フードコートを設け、ファミリー層の取り込みに力を注いでいる。
そして一週間後の4月26日には、“渋谷ヒカリエ”がオープンした。目玉は国内最大級のミュージカル専用劇場“東急シアターオーブ”に加え、20代後半~40代の働く女性をターゲットにした東急百貨店の新店“ShinQs(シンクス)”。 230余りの店舗・売り場の中でも、一部の飲食店は6月から祝前日・金・土は午前4時まで営業している。
オープンラッシュの最後を飾る“東京ソラマチ”は、東京新名所“東京スカイツリー”に隣接する都内最大級の商業施設であり、312店舗が軒を連ねている。“新・下町流”をコンセプトに、スカイツリーに訪れる観光客だけでなく、沿線や近隣住民のニーズにも対応する、商店街的要素を組み込んだテナント構成になっている。
オープンから約半年たった現在、“東京ソラマチ”と“ダイバーシティ東京プラザ”は、連日多くの人々で賑わっている反面、立地に恵まれた表参道の“東急プラザ”と“渋谷ヒカリエ”は苦戦を強いられているようだ。オーバーストアで需要を食い合ってることもあるが、東急が開発した二施設は差別化できる明快なコンセプトと、メイン・ターゲットのニーズの見極めに失敗したようだ。
余談ながら、スカイツリーの来場者数が、開業から100日間で1,666万人に上ったと発表された。堅調なレジャー消費を追い風に、日本人の8人に1人を呼び込んだ驚異的な数字である。

ロンドン・オリンピック

オリンピック史上初の、全種目への女子の参加が実現した今回の第30回大会で際だっていたのは、日本女子代表選手たちの“女子力”だった。

今回の日本選手団は293人、男女別でみると男子137人・女子は156人。北京大会では男子170人・女子169人だったことから、ロンドンでは男女の人数が逆転した。メダル獲得数では男子21個、女子は17個。メダルの数では男子に及ばなかったが、女子選手の活躍ぶりは今や男子選手にひけを取らない。金メダル第1号となった柔道の松本薫、三大会連覇という偉業を成し遂げたレスリングの伊調馨と吉田沙保里の三選手は、名実共に世界の女王と呼ぶにふさわしい。
普段はごく普通の女子が、真剣勝負の場では驚くほどの集中力を発揮し、まるで表情が変わってしまう。特にその違いが顕著に出ていた柔道女子の金メダリスト、松本薫選手を思い浮かべた人も多いだろう。試合中の野獣のような表情は、男子顔負けである。男子顔負けといえばもう一人。吉田選手とならびオリンピック三連覇の伊調馨選手は、じん帯一本半が切れていた中で試合に臨んでいたという。また、毎試合熱戦を繰り広げてくれたなでしこジャパンも深夜(早朝)の中継にもかかわらず、2戦目のスウェーデン戦では、視聴率が30%を越えた。他にもアーチェリー女子団体の銅メダル獲得など、普段あまり日の目を見ない選手の活躍も、オリンピックを盛り上げた一因となった。
開会式に登場した日本選手団が早々に出口に誘導されてしまったミス、空席の目立つ人気競技の会場、格闘技のみならず体操や水泳での誤審など、多くの不手際が目立った大会だったが、そんな中での女子選手の活躍が、私たちに感動や勇気を与えてくれた。

どうなる日本

昨年の東日本大震災をきっかけに原発問題、経済不況、政局混迷、中国の反日デモや竹島・尖閣諸島問題など、日本の今後を大きく左右する内外の諸問題が出そろった年だったのではないか。この国難とも言える時期を乗り切るリーダーの不在に暗澹たる気持ちになる。

のらりくらりと意味の無い返答を続ける野田総理や、健康上の理由とは言え一度は総理の椅子を途中で投げ出した安倍総裁が、良い方向に舵取りをしてくれるとは信じがたい。
また先月25日には、石原都知事が「命あるうちに最後のご奉公をしたい」と、約2年半の任期を残し辞任し、次期衆議院選への出馬を表明した。任期半ばでの辞任について、261万票を投じた都民への説明を求められると、「これはしようがないです。もっと役に立つ仕事をしようと 思っていますから」と、自らを「トンネルを掘る削岩機の一番銛(もり)みたいなもの」と、「トンネルが開いて、風が吹き込んでくればそれでいい。開通式やテープカットに出ることはない。それが私の宿命だと思っている」と述べた。だが石原都知事の残した実績は、東京マラソンしか思い浮かばない。多くの反対にもめげず主張していた、築地市場の移転、東京オリンピックの招致、中国を硬化させた尖閣諸島購入発言など、自身の蒔いた種にもかかわらず途中で投げ出したとしか思えない。

2012年は、多くの国や地域でトップ交代や選挙の行われた年であった。第一陣となった1月の台湾総統選挙、2月にはイエメン大統領選、3月はロシアのプーチン大統領の再選、5月にはフランス大統領にオランド氏が選ばれた。そして11月6日は、全世界が注目するアメリカ大統領選の投票日だ。韓国でも12月には大統領選が予定されている。多くの国は、新しいリーダーの元、2013年に向かっている。
永田町の方々も『近いうち』の定義論争に終止符を打ち、来年に向かい半歩でも前進できる政策を打ち出すことが、政治家として最低限のモラルではないか。