時代の気分 Market Scope vol.200 Dec. 2013  文:石丸 淳

2014年のクルマ事情

全くアベノミクスの恩恵ではないのだが、少しずつ景気が上向いてきているのか、輸入車の売れ行きがこの年末、2014年に向かって好調なのだという。大きな理由はもちろん消費税の問題ではあるだろうが、何れにせよ人々が消費という行動に出ているところは経済問題として良好ではある。Mercedes-BenzMASERATIAudiなどが一様に対前年同月比で30%以上を記録し、四半期でも史上最高などと謳っていることが、先日ニュース番組で取り上げられていた。VolkswagenPORSCHEなども今まで通り好調なようである。
そんな折に、墓参りで何度か遠出をしなければならなかったので、ラグジュアリー・セグメントの輸入車を幾つか借り出して乗ってみた。何故なら、ここのところ生活をコンパクトにするために、小さなクルマを乗り継いでいたからである。ラグジュアリー・セグメントは少し数字を落としていたようだったが、都内の路上を見る限りではBMWの7シリーズや6シリーズのグラン・クーペ、Audiも8や7が好調のようだ。一方、発表直後でデリバリーの追いつかないMercedes-BenzのSクラスやMASERATIのクアットロポルテなどはまだ見かけない。

まずはその最新のMercedes-Benz のSクラスだが、これが何とも良く出来たクルマで文句の付けようがなかった。一層大きくなったフロント・グリルやそのブランドについては好き嫌いがはっきりと分かれるところだが、素晴らしく良く出来ている。大きくなったグリルには訳があって、レーダーなどが装着されているのだ。またルーム・ミラーに付いたカメラで15m先の路面状態をスキャンし、サスペンションを事前にコントロールするなど、最新のテクノロジーが満載である。その乗り心地や静粛性など、現状でベストなラグジュアリー・セグメントであろう。
その少し前にJAGUARXJで今年設定された2リッター・モデルにも乗ってみた。あの大きなボディに4気筒の2ℓというパワー・プラントではどうかと思ったが、走り出してみれば思いの外パワフルで、40km/hも出るとそこからはスイスイと速く走ることが出来る。音も絶妙にチューニングされていて、4気筒であることを忘れさせる音量と音質である。だが、これまでのV8大排気量による“ドンッ”と前に押し出されるようなパワーはないため、それを求める人には全く向かないし、アピールもしない。しかもその割に燃費もそんなに良い訳ではない。
どういうつもりで導入を決めたのかは定かではないが、時代の要請のつもりだったのだろうか。ダウン・サイジングと言えば聞こえは良いのだが、そのマーケティングが全く出来ていないことが問題だと思う。これまでの顧客、つまり旧来の価値観でJAGUARを欲しいと思う人には、物足りなさだけではなく、何となくセコくて威張れない感じがしてその魅力は理解出来ないだろう。これを売るためには新しい時代の価値観は何かマーケティングし、その価値を創るという作業をしなければ、全くの失敗に終わりかねない。
聞くところによれば、日本以外のマーケットでは好調らしいので、日本でのマーケティングが出来ていないということだろう。Coventryの本社ではハイブリッドやディーゼルもいろいろ開発してはいたが、特に新しい技術も魅力もない今のXJはコンヴェンショナルなイギリス車の魅力をも捨てて、それまでのマーケットから他のマーケットにカテゴリーを移してしまった感がある。それはメルセデスのSクラスやBMWの7シリーズなどと競合することを止めて、Audi、PORSCHE、MASERATIなどのマーケットに向かうことを本社が決めたのだろう。
大変な覚悟の上でモノ造りの方向性を変えたように思うのだが、それに合わせたマーケティングがきちんとなされないと、相当辛いことになるだろう。ボディではなく、パワー・プラントのダウン・サイジングというのは世界的な傾向で、燃費(主に化石燃料の消費量とそれにともなう排出ガス量)を減らすことが重要だが、ただそれだけでは魅力に欠ける。こうしたことは新世代のクルマ(ハイブリッドなど)を造る上でも欠かせない問題でもある。何を目指し、何を基準に開発をするかということだ。

6年ほど前に、この欄でエコカーに触れた。ようやく今、その頃に書いたことが進んできている。ハイブリッドはトヨタが逸早く導入して先鞭を付けた。今や日本のマーケットでもBMWは3、5、7シリーズにハイブリッド、そして3、5シリーズにディーゼルを配している。AudiもA6、A8、Q5にハイブリッドを揃え、Mercedes-BenzにはSとEにハイブリッドが用意される。特に前述したように、都内におけるBMW7シリーズのアクティヴ・ハイブリッドの数の多さたるや相当なものだ。注意して見てみると3シリーズのアクティヴ・ハイブリッドも多いことがわかってくる。
そしていよいよBMWから純粋なEV(エレクトリック・ヴィークル:電気自動車)であるi3i8が2014年に発売されることとなった。ヨーロッパのエコカーは何が違うかというと、ガツガツとただ燃費の向上を追うだけではなく、乗って楽しいモノ造りをしていることだろう。以前乗ったトヨタのプリウスは、ひたすら燃費を良くするために感覚的なものを大分スポイルしているように感じられた。もともと日本のクルマには大きく欠けている部分でもあるが、それが一層酷い。簡単に言ってしまうと、乗って操作するだけで何一つ面白味がない。
加えてデザインにも問題がある。これも以前、大トヨタがCMで名優ジャン・レノをドラえもんにして“免許を取ろう”などとキャンペーンを展開していると書いたが、その次は “クルマの買い方”という、「ああ、やっぱりな」とありきたりなところに着地した。確かに若い世代の自動車離れは日本の基幹産業にとって深刻ではあるが、それ以前にもっと魅力的なクルマを造らず、そして生活を描くことが出来ていないところが問題なのだ。以前トヨタに勤め現在は某輸入車のマーケティングに携わる女性は「だって格好良いクルマを造っていない!」とのたまっていた。

クルマが夢の時代はとうに終わっている。しかし、モノとしての魅力は必要であろう。例えそれが道具であるとしても、道具には道具としての“持つ喜び”というものがあっても良いはずだ。そこが解決されない限り、日本の自動車産業は厳しい状況になるだろう。そこに環境と化石燃料の問題が絡むため、より事態は難しくなっていく。
EVにもそうした見地から、幾つかの問題をはらんでいる。ひとつは、現状(旧来)の日本の発電形態が火力中心である限り、EVのための電気を生むのに環境への負荷が掛かることだ。
次に充電スタンドというインフラ整備の問題である。経産省の「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」での補助金対象であることから急速にその設置数を増やしてはいるが、まだまだその走行距離の短さから到底足りているとは思えない。今のところ、三菱、日産がEVを発売しているが、その他もプラグイン・ハイブリッドなどで参入してきている上に、今回のBMWの参入でどうなるだろうか。BMWの目論見としてはインフラが急速に進むと踏んでのことだと思われるが、日本の対応が愉しみな局面でもある。
余談だが、変わり種で、トヨタがバック・アップするアメリカのEVメーカー、TESLA MOTORSも少しずつ日本で業績を延ばしてきている。やはり充電スタンドの問題があるため今のところ大きな数字にはなっていないが、面白いのはその顧客層と買い方である。広報で聞いたところによれば、アメリカでも日本でも、顧客はやはり環境問題にきちんとした意識を持っている人が多く、その注文はインターネットから、しかも支払いも殆どがカード決済するそうである。新しい技術に反応する人はその購入方法も新しい。

EVに話を戻すと、走行距離を伸ばすために発電用の小さなエンジンを搭載するものも出てきている。燃費という考え方からは外れるが、化石燃料の消費量はかなり抑えられていることになる。これも以前ここで触れたが、化石燃料で発電させない代わりに水素を分解して電気を生むFCV(フューエル・セル・ヴィークル)に今後の注目が再び集まっている。水素をガソリン状に燃やすエンジンのタイプもあるが、こうしたことから水素のインフラ整備に向けて、また獲得ウォーズが始まっているらしいと、至近のニュースが伝えていた。
とは言え、こちらもまたその製造と供給ステーションのインフラ整備の問題がある。加えて水素はガソリン以上に取り扱いの難しい危険なものでもある故に、扱うための新しい技術が高効率の製造も含めてもっと生まれないといけないだろう。何れにしても、この5年ぐらいでまた大きく事情が変わるのは間違いない。そんな中で運転する愉しみだけはなくならないでほしいなどと考えつつ、BMW7シリーズのハイブリッドとMASERATIの新しいクアットロポルテなどにこれから乗ってみようと思う。