Market Scope Back Issues

ビューポイント

text by 宮副謙司

  1. 新しい家電
    — 身の回りにある新たな価値の創造 —
  2. 顧客価値から考えるマーケティング戦略
  3. ポジショニングマップとイノベーション
  4. ライフライン型小売業の将来
  5. トイザラス日本市場20年と小売業の国際化
  6. 最近の食品の新製品開発とマーケティング戦略
  7. 地域活性化のマーケティング
  8. 地方菓子メーカー「たねや」の地域活性化
  9. 雑誌の新たな動き
    — 小売・情報発信の機能を超えて —
  10. 顧客マーケティングの新段階
    — 「ソーシャルCRM」の時代にやるべきこと —
  11. ECサイトのマーケティングに学ぶ
  12. “B to B”企業のマーケティング戦略
  13. スポーツマーケティング
  14. MBA学生は何を目指すのか?
  15. 地域活性化のマーケティング
    — 新たな視点での捉え方と取組みの目標
  16. 新しい製品コミュニケーション戦略
    — トヨタ「アクア」の取組み事例を中心に
  17. 病院と企業のコラボレーション
  18. マーケティングチャネルの再考
    — メディアチャネルと小売チャネルの融合が生み出す変化と可能性 —
  19. 店舗のあり方・何を揃え、何を見せるのか
  20. 郊外・地方SCに慣れたファミリーの消費研究
  21. メイカーズ:新しいモノづくりとマーケティング
  22. 地域活性化手法での高付加価値マーケティング
  23. エンゲージメント・マーケティング
  24. IKEA研究
  25. 渋谷の将来
  26. 食が生み出す経験価値とイノベーション
  27. 展覧会考 — 最近の展覧会を見て思うこと —
  28. 新しいメーカーと小売の関係
  29. 最近の消費動向にみる「個人的な」分析
  30. 正しいグローバル・マーケティング戦略
  31. 米国ポートランドにみる地域活性化の最新展開
  32. 自分で考え問題解決するMBA
  33. 地域活性化 — 地方での起業家研究

インドいろいろ

text by 貴田マリ

時代の気分

View Point Market Scope vol.198 Oct. 2013 文:宮副 謙司

米国ポートランドにみる地域活性化の最新展開

米国オレゴン州ポートランド市は、「全米で最も環境に優しい都市」「全米で最もおいしいレストランが集まる都市」「ベストデザイン都市全米第5位」などに次々と選ばれ注目を集めている。地域活性化のモデル都市として話題になることが最近多い。
ポートランドは、パシフィック・ノースウェストのシアトルとカリフォルニアの間に位置し、市の人口約60万人、周辺都市を含めた都市圏人口約220万人を有するオレゴン州最大の都市である。
長年ポートランド周辺は小麦や野菜など農産物の産地で、さらにコロンビア川といくつかの川の合流点でもあることから港が形成され、周辺部広域から集積された小麦を港から出荷するという、豊かな農産物に恵まれた都市である。さらに「都市成長境界線」を設け、むやみな都市化を規制していたため、大都市でありながら周辺に農業地帯が形成され、野菜などの「地産地消」が自然と成り立つ都市でもある。
またコロンビア川渓谷など豊かな自然環境を活かしたアウトドアスポーツが盛んで、「Columbia」などのスポーツメーカーに加え、近年では「NIKE」の本社も立地する。さらに「intel」などのハイテク産業も進出し、ポートランドからシアトルに至る地域は「シリコンフォレスト」と呼ばれ、カリフォルニアのシリコンバレーに次ぐハイテク産業のメッカとなっている。

代表的な地域活性化その1:パール地区の都市再開発

ポートランド市の地域活性化の代表的な施策の第一は、何と言ってもパール地区の都市再開発であろう。
ダウンタウンの北西部に位置し鉄道のユニオンステーションに程近いこの地区は、かつては広大な鉄道操車場やそれに関連した数多くの倉庫群があった地区である。この地区の範囲は東西に750m、南北に1㎞、面積は東京ドームの約16個分、そこに100のブロック(街区)が形成された。1980年代から再開発が始まったが、1994年に地元デベロッパーのHOYT社が大規模に着手し、1997年から行政と共同計画し本格的な再開発を進めた。
現在では、そこに25か所のアートギャラリー、60軒の生活雑貨専門店、50軒のカフェやレストラン、60軒のブティックが1階に店を構え、街並みを形成している。その他にも3つのアートスクール、オフィスと住居が混在している。またファーマーズマーケットやブロックパーティ、ストリートフェアが開催され、一つの施設のように連携しながら活性化している。日本の地域開発のような美術館、スポーツセンター等の箱物建設でもないし、都市部の複合施設開発のようなその施設だけの活性化でもない。エリア全体に様々な目的の人が訪れ、交流し、何かを発見し、息づいている街となっている。
日本でも知名度のある小売業では、「WHOLE FOODS MARKET」「SAFE WAY」(食品スーパーマーケット)、「REI」「patagonia」「THE NORTH FACE」などのアウトドアスポーツ、ファッション「ANTHROPOLOGIE」「DIESEL」といったところ。(チェーン店はこの程度しかないとも言える)。注目は全米最大級と言われる大型書店「Powell’s books」で様々なカテゴリーの専門書・趣味書をリアルでみて購入できる。それだけの店を成り立たせるほど様々なクラスターの人が街を訪れているということだろう。
この街にはオーガニックな地産地消が楽しめるレストランが数多くあるし、他にもレコード・楽器店(由紀さおりの「夜明けのスキャット」もこの地で見い出されたという)、画材店、自転車修理・部品店など高質で高感度なライフスタイルが展開され感じられるエリアとなっている。

代表的な地域活性化その2:月・週・曜日単位でのイベント開催

ポートランド市のベストシーズンは3月から8月とされる。その間、毎月のようにダウンタウンで大掛かりなイベントが開催される。例えば、「" target="_blank">スプリング・ビール&ワインフェスティバル」(3月)、「コミックフェスティバル」(4月)、「テイスト・オブ・ザ・ネイション・ポートランド(食の祭典)」(5月)、「ローズフェスティバル」(6月)、「オレゴン・ブリュワーズ・フェスティバル(地ビール祭り)」(7月)、「バイト・オブ・オレゴン(シェフの祭典)」(8月)、「ミュージックフェスト」(9月)、「ポートランドマラソン」(10月)などである。これらによって全米からそのマニアが出場・参加するために集まり、それを楽しむ観光客が訪れるという仕組みだ。
また「ファーマーズマーケット」は、中心部の公園やポートランド州立大学キャンパスなど市内7か所で定期的に開催される。出店者は50以上で、ポートランド近郊の農家・牧場経営者で、新鮮な野菜・果物をはじめパン、蜂蜜、チーズ、キノコなど新鮮な食材が手ごろな価格で購入できる。中には、新興の外食店の出店もあり、そこで人気を集めたら本格的に店を構えることができるなど、起業家育成の機能もあるようだ。

マーケティングモデルで考える

地域活性化とは、地域資源に着眼し、地域の個性・価値に編集し(価値の創造)、その価値を伝達・提供する。そして継続的に共鳴・共感を得る発信の仕組みも重要であり、価値を受け入れる(購入する・観光訪問する)顧客だけでなく、取組の参画・支援者(企画・技術・資金などの提供)を増やし発展していく活動ということになる。
すなわち①地域活性化は、「価値の創造」(地域のブランド化の実現)に留まらず「価値の伝達・提供」まで目標として取り組むべきである。しかも②「価値の伝達」はマス向け認知向上型の情報発信から進んで、消費者の共感を呼び、想いを残すような体験や参画型とすることが求められる。
そして③そのような取り組み全体を俯瞰するコーディネーター機能が必要であり、④地域活性化の担い手として民間企業、地方行政あるいはNPOなどが考えられるが、それぞれを連携させることが求められる。⑤地域活性化の目標(あるいは評価)も、従来の経済効果では括れない新しい指標、例えば社会に与える定性的指標(地域住民の行動・意識や生活満足度の変化など)も考慮するべきであり、少なくとも短期的な経済的目標でなく、中長期的な目標を掲げる必要があるのではないかと考える。

ポートランドの場合、地域資源は数多くある。それをいくつかの活性化テーマ、例えば、食、アート、スポーツ(自転車・アウトドアなど)で編集している。それを体験するために人が集まり、それを提供するシェフや芸術家が定住するようになる。すなわち、このモデルが確実に循環していて(日本に数少ない)、しかも複数のテーマで価値が創造され、伝達・提供され、地域が持続的に活性化するように仕立てられていることは明らかだ。

ポートランドの地域活性化展開の評価

評価できることの第一は、行政のリード、民間、NPOの巻き込みである。ポートランド市の市開発局などの行政の地域活性化の具体的施策としては、①自然環境と先端的技術を活かした環境に優しい「グリーンシティ」戦略、②路面電車(ストリートカー)など公共交通機関でのダウンタウンと郊外の回遊の促進があげられる。全体を俯瞰し長期的で戦略的なこと(行政しかできないこと)を確実に実施している。そして市開発局などの地域の行政が長期的な戦略を策定し、開発業者(HOYT社など)・建築デザイン企業・広告代理店(Wieden+Kennedy社など)・スポーツやアートの団体組織(PNCA:パシフィック・ノースウェスト・カレッジ・オブ・アート)などを巻き込み、地域活性化のリーダーシップを発揮している。
第二は、その価値の創造と伝達にある。すなわち、アート・音楽、食、スポーツなどに関する大規模なイベントから、「ファーストサーズデイ」(毎月第1木曜)、「ファーマーズマーケット」(月・水・土開催)まで1年を通して月・週・曜日単位で体系的に設計された定期的なイベント開催で様々な目的の観光客を呼び込んでいる。
その参加者(出展者)は地域の農家・芸術家や新興起業家であり、彼らの参加を促し市場機会を与えて育成し、住民の地元意識も高める地域活性化施策が展開されている。

このような長期視点で組織的・体系的な施策の取り組みを継続的に行っていくことが、日本の地域においても望まれるのである。


参考文献

  • 宮副謙司(2013)『地域ブランド戦略の課題-本質的な価値の提供を』日本経済新聞朝刊(2013年9月23日付け)
  • 吹田良平(2010)『グリーンネイバーフッド』繊研新聞社